20200613

本の表紙について・BookCover Challenge 1

私にしては珍しく自ら手をあげてコンペティションに参加しました。(人と争う場が苦手で、普段はコンペを極力避けております。)本の表紙のコンペです。審査は装丁家の鈴木成一さん。残念ながら私の案は採用されませんでしたが、原稿を読み、表紙を考えたことで、特別な一冊になりました。アツイ本なんです。



「赤ちゃんをわが子として育てる方を求む」
 著/石井光太

菊田昇さん、実在の産婦人科医の、情熱的で壮絶な物語。「いのち」に対する燃え上がるような責任感から、日本医師会や国と闘い続け、ついには法がかわるまでに。7カ月を過ぎた赤ちゃんを堕ろすことができなくなり、「特別養子縁組」制度ができたのも、菊田さんのおかげです。

遊郭に生まれ育ち、性といのちの悲喜こもごも(哀しいことの方が多そうだ)を感じながら成長する。身近には、闇営業の堕胎で命をおとす女性、戦時中出兵前に子供を残したい熱を帯び遊郭の女性に迫る男性達‥。産婦人科医になってからは、’産声をあげて生まれてきたのに’いのちを断たねばならない中絶に耐えられず(このあたり読んでいて私も辛かった)、一方、不妊治療の末子供が産まれないことで家を追い出されることになる女性達にも出会う。産婦人科の現場で、おかしいんじゃないかと思ったことには、声を上げて行動をします。

そして、タイトルにあるとおり「望まぬ妊娠をした女性が子供を堕ろすことなく、子供を欲する夫婦の実子となるよう非合法な縁組みを始める。そう、法律を変える前に、彼は行動をはじめてしまう。違法行為!新聞にスクープされ、家宅捜索され、国会招致、日本医師会からの処分を受けた。「赤ちゃんあっせん事件」として当時の世を騒がせた(らしい)。でもあきらめなかった。日本で無理なら海外への赤ちゃん斡旋はどうだろう‥?(法律を変えるように尽力しつつも、その間も赤ちゃんは産まれ続けていた)。

すごく熱い本ですから、ぜひ、この表紙描きたかった‥本になる前の原稿の状態で読んだのですが、だいぶきもちを持っていかれました。

さて、ところで、あなたのお気に入りの本の表紙は、誰が作ったものだかご存知ですか?私の場合、自分の持っている本、気に入っている本などの本の表紙の多くが、一人の装丁家によるものだと気がついた時には驚きました。あの本も、この本も!?装丁家の鈴木成一さんです。
それから、鈴木成一さんが書いた装丁についての本を3冊読みました。他の装丁家さんの本も何冊か読んでみました。装丁に関わる姿勢、制作の方法など知った上で改めて鈴木成一さんのお仕事が素敵だな、と思いました。本の原稿を全部読み込んで、表紙の提案をするのです(装丁家のなかには、原稿をよまず、編集者の指示に従ってつくるだけの人もいるそうです)。
装丁についての本を読むうちに、ムクムクっと生まれた新たなきもち「私も本の表紙つくりたいな。だってこんなに本が好きなんだもの!」と。そしてこのコンペです。審査は装丁家の鈴木成一さん。
参加お題は「生まれたばかりの赤ちゃん」。
私の提案した表紙絵、装画(そうが)は、赤ちゃんの絵2点。一点は緻密に描き込んだペン画。もう一点は、まさに、今、生まれた!という命のエネルギー、をパワフルに表現したもの。
これは「観察して描いた」いう印象を強く持たせるようです。冷静な観察者の目線。主人公の情熱や使命感に対して、「冷たい」表現だということでした。主題が生命讃歌になってしまうような絵も、またこの本にはふさわしくない。
もっと頼りなげな、つい助けたくなるような存在、として赤ちゃんを描くことが今回の本に合っていたようです。そして、赤ちゃんを通して、愛おしい、守りたいと思わせるきもち、こそが、描かれるべきもの。最終的に選ばれた装画を拝見しましたら、「あぁなるほど、そういうことかぁ」と納得しました。とても魅力的な赤ちゃんの絵で、たまらなく柔らかそうで、頼りなげで、なんとも愛おしいものでした。
他のコンペ参加者の絵についての鈴木先生の言葉も、聞けば納得させられます。生まれたての赤ちゃんというひとつテーマのもと描かれた数々の絵に対し、それぞれ絵のもたらす印象の違いを明確に説明してくれます。絵の違いを繊細に見極める目、恐れ入ります。そして鈴木成一さんの、語彙の豊かさ!微妙なニュアンスを言葉に変えて伝えてくださるところも尊敬します。膨大な量の原稿を全部読んで装丁しているからでしょうか‥。私も、読んで、描いて、そのニュアンスを言葉でも説明できる人になりたいです。

ブックカバーチャレンジのバトンの一日目です。本を7冊紹介する、というリレーだそうです。本の表紙だけ紹介。本文の説明なし。1日1冊紹介し、毎回誰かにバトンを渡すというルールらしいです。始めた方がどなたで、定められたルールの意図は何なのかなど分からないことばかりのバトンです。よく分からない(納得できていない)ルールに従うのはシャクなので、自分でルールつくります。「ブックカバー」=「表紙」について考えるチャレンジをしてみようと思います。
長文読んでくださった方、ありがとうございます。

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