20200618

顔。顔。顔。 BookCover Challenge 3

とても好きな本を紹介したい。「スリランカ 古都の群像」廣津秋義 著(2010年発行)


スリランカの古都キャンディに暮らし働く80人へのインタビューとポートレイト(写真)集。様々な職業、生き方があり‥とても魅力的な人や、気が合いそうな人だけでなく、どうにもいけ好かないと思ってしまう人もおり、その雑多さが、ひじょうにおもしろい。(おもしろいとしか説明できない自分が腹ただしい。)家族、仕事、人生についてのインタビュー。
時計修理職人(83歳)さんの、淡々とした語り口からにじみ出る情熱に、とても惹かれます。「学業を終えたあと、自宅にある時計をかたっぱしから分解しているうちに、時計の面白さに目覚めました。それがきっかけで、私が住むカトゥガストタで時計修理を専門に行っている職人のところに弟子入りしました。」からはじまる本文では、スリランカの時計修理にまつわる具体的な出来事が語られていて、異国にいる私にも興味深い物語でした。
一方で、ペラデニヤ大卒のインテリ夫婦(夫34歳・妻33歳)の過去の成績についての話は読んでいて、あまり気持ちがはいっていきません。「Oレベルの全国統一試験に合格後‥」「13年生でAレベルの全国統一試験を受け‥」。きっとものすごく難しい試験を通ってきたのでしょうが、試験の仕組みが分からない私にはいまいちピンとこないのです。きっと、日本での「学校の成績」「偏差値」「センター試験の得点」なども、海外の人から見たら同じように「それが何なの?」という程度のことなのかもしれないなぁ、とふと。
宝くじ売り(65歳)。政府の発行している宝くじだが、販売する人にとっては、なかなか厳しい商売らしい。くじは「仕入れる」もので、売れ残りは引き取ってもらえないから、期限内に売り切らなければならない。そして取り分はなんとたったの10%。政府のためにお金を集めているようなものじゃないか!この本を読んだ後でスリランカを旅した際、路上でよく宝くじ売りをよく目にした。10%かーきにしいなーとその度に思った。
物乞い(46歳)は自宅から往復のバス代50ルピーかけてキャンディに「出勤」している。家族もいる。子供は3人。
近くにいた新聞売りの談話:「(別の物乞いを指して)おれなんかよりよっぽど稼ぎがいいはずだよ。(中略)破れたズボンに薄汚れたシャツでいかにも乞食風情だけれど、あれは金をめぐんでもらうための方便さ。家に帰ると綺麗な服に着替えてる。昔からここで仕事をしているからよく知っているよ。この辺じゃ一番の稼ぎ頭さ。」
仏具店マネージャー(30歳)の、自信ありそうな爽やかな笑顔と、ユーモアを交えたトークは、いかにもお商売人と思わせるもので、日本の営業上手なサラリーマンを彷彿とさせます。「婚約者がいますのでいずれ近いうちに結婚します。(中略)たぶん出家得度者のような生活になるでしょう。だって、妻の規律に従っていくしかないでしょう?」
ほかにも消防署所長、男子校の生徒、子だくさんのおばぁちゃん、象使い、孤児院の保母、政治家‥と80人。優しい笑顔、どこか胡散臭さを感じさせる笑顔、偉そうな顔…。あぁ、ひとりひとり違う生き方をしているんだなぁ、とそんな当たり前のことに気がつく。(このインタビュー本の魅力は写真にもある。)
本を読んだ後のスリランカの旅では、途中すれ違う様々な人の表情を見てはこの人はどんな生き方をしている人なのかしら?と想像するようになった。この本を読んだ後では、「スリランカ人」と十把一絡げに見ることはもうできない。人のいる町の風景に奥行きがでたように感じられる…読書後の私の世界を変えたという意味で、とてもいい本に出会えた。
数人の顔写真が並ぶ表紙。読む前はそんなに気にしていなかったが、その表情の奥の物語を少しだけ知っている今、改めて表紙を見てみると、ぐっと胸が熱くなる。あぁこの顔、この笑顔!
読む前と読んだ後で、こんなに印象の変わる本の表紙というのもなかなかないものだなぁと思い、ブックカバーチャレンジ3日目の本に選ばせてもらいました。


20200613

表紙はティッシュ(?)に箔押し!・BookCover Challenge 2

こんなに触り心地の良い表紙、手に持ったことがあったでしょうか。私にとって初めての経験です。まさか表紙がティッシュでできているなんて!



表紙:「ワディングペーパー」 
ティッシュ(綿花紙)10P と 未晒クラフト紙 50g/㎡ を貼り合わせたもの。

山一加工紙さんの制作だそうです。加工紙はその都度オーダーメイドで作ってもらうのが基本だとか。重ねるティッシュの枚数、ベースとなる紙の種類や厚み、納品形態(巻取のまま・小巻・平版)を指定して作ってもらうんだって。このワディングペーパー、製本機に入らないそうで、なんと全て手貼り。製本は図書印刷さん。

本体と一緒に表紙を化粧断ちすることも難しいそうで(一般的にはサイズ大き目な紙に印刷し、加工、全部一緒に裁断する)、今回はあらかじめ仕上がりサイズに裁断したものを用意し、そこから後箔押し加工へ。加工は箔押し会社コスモテックさんだそう。どうしても個体差がでてしまう‥ので一枚づつ検品したのは山一加工紙さん。とてつもない手作業をいれながらの14000枚!なんと!

編集者さんと、山一加工紙さん、図書印刷さん、コスモテックさんの、この表紙を作るにあたっての執念のようなものが感じられます!すごい表紙だ!内容も面白いです。

「デザインのひきだし 紙(再)入門 紙にとことん詳しくなる為のガイドブック」

紙サンプルBOOKも充実。「とにかく覚えるのだ。絶対紙感を身につける!」「紙かるた」(付録)とかマニアックで興奮しますね。まだまだ奥が深そうで、全ての内容を頭にいれるのはなかなか大変そう。ずいぶん時間をかけて楽しめそう、保存しておきたい一冊です。

この雑誌、入手するのにずいぶん苦労したことでも思い出深いです。ある日、京都に出かけていて、ある本屋さんで見つけ一目惚れ。「いいじゃん!帰りに買ってこ!」と数時間過ごした後雑誌のところに戻ってきたら、もうない!なんとその日のうちに完売。三冊ほど平置きになっていたのに!取り寄せもできないとのこと。ネットでしらべてもそちらも完売。その足で別の本屋さんへ行き、カウンターで「デザインのひきだしの、最新の紙の号…」と問い合わせの為説明している途中で私の言葉にかぶせて、「あーないんですよ。今日何人かに聞かれたんですけどね。人気ですよね、すみません。」と店員さん。岐阜に戻ってきたらあるかしらと、岐阜駅ついてすぐ本屋さんに行ったのに、そちらも売り切れ。しかし、別の店舗にまだ在庫があるとのことで、ようやく手に入れることができた思い出深い一冊です。


かわいくてなでなでしてしまいます。ティッシュ10枚の触りごこち、ふかふかで最高です。


ブックカバーチャレンジのバトンの2日目です。本を7冊紹介する、というリレーだそうです。本の表紙だけ紹介。本文の説明なし。1日1冊紹介し、毎回誰かにバトンを渡すというルールらしいです。始めた方がどなたで、定められたルールの意図は何なのかなど分からないことばかりのバトンです。よく分からないルールに従うのは、なんか納得できないわよね‥ちょっとシャクだわ。それでも、本は好きだし、他人の本の紹介を見るもの楽しいし、私も何か本紹介したいなぁ‥。


自分でルールつくろうかなぁと思います。「ブックカバー」=「表紙」について考えるチャレンジをしてみようと思います。これまでそんなに真剣に本の表紙に向き合ってきたことがなかったので、これ、けっこうチャレンジです。

本の表紙について・BookCover Challenge 1

私にしては珍しく自ら手をあげてコンペティションに参加しました。(人と争う場が苦手で、普段はコンペを極力避けております。)本の表紙のコンペです。審査は装丁家の鈴木成一さん。残念ながら私の案は採用されませんでしたが、原稿を読み、表紙を考えたことで、特別な一冊になりました。アツイ本なんです。



「赤ちゃんをわが子として育てる方を求む」
 著/石井光太

菊田昇さん、実在の産婦人科医の、情熱的で壮絶な物語。「いのち」に対する燃え上がるような責任感から、日本医師会や国と闘い続け、ついには法がかわるまでに。7カ月を過ぎた赤ちゃんを堕ろすことができなくなり、「特別養子縁組」制度ができたのも、菊田さんのおかげです。

遊郭に生まれ育ち、性といのちの悲喜こもごも(哀しいことの方が多そうだ)を感じながら成長する。身近には、闇営業の堕胎で命をおとす女性、戦時中出兵前に子供を残したい熱を帯び遊郭の女性に迫る男性達‥。産婦人科医になってからは、’産声をあげて生まれてきたのに’いのちを断たねばならない中絶に耐えられず(このあたり読んでいて私も辛かった)、一方、不妊治療の末子供が産まれないことで家を追い出されることになる女性達にも出会う。産婦人科の現場で、おかしいんじゃないかと思ったことには、声を上げて行動をします。

そして、タイトルにあるとおり「望まぬ妊娠をした女性が子供を堕ろすことなく、子供を欲する夫婦の実子となるよう非合法な縁組みを始める。そう、法律を変える前に、彼は行動をはじめてしまう。違法行為!新聞にスクープされ、家宅捜索され、国会招致、日本医師会からの処分を受けた。「赤ちゃんあっせん事件」として当時の世を騒がせた(らしい)。でもあきらめなかった。日本で無理なら海外への赤ちゃん斡旋はどうだろう‥?(法律を変えるように尽力しつつも、その間も赤ちゃんは産まれ続けていた)。

すごく熱い本ですから、ぜひ、この表紙描きたかった‥本になる前の原稿の状態で読んだのですが、だいぶきもちを持っていかれました。

さて、ところで、あなたのお気に入りの本の表紙は、誰が作ったものだかご存知ですか?私の場合、自分の持っている本、気に入っている本などの本の表紙の多くが、一人の装丁家によるものだと気がついた時には驚きました。あの本も、この本も!?装丁家の鈴木成一さんです。
それから、鈴木成一さんが書いた装丁についての本を3冊読みました。他の装丁家さんの本も何冊か読んでみました。装丁に関わる姿勢、制作の方法など知った上で改めて鈴木成一さんのお仕事が素敵だな、と思いました。本の原稿を全部読み込んで、表紙の提案をするのです(装丁家のなかには、原稿をよまず、編集者の指示に従ってつくるだけの人もいるそうです)。
装丁についての本を読むうちに、ムクムクっと生まれた新たなきもち「私も本の表紙つくりたいな。だってこんなに本が好きなんだもの!」と。そしてこのコンペです。審査は装丁家の鈴木成一さん。
参加お題は「生まれたばかりの赤ちゃん」。
私の提案した表紙絵、装画(そうが)は、赤ちゃんの絵2点。一点は緻密に描き込んだペン画。もう一点は、まさに、今、生まれた!という命のエネルギー、をパワフルに表現したもの。
これは「観察して描いた」いう印象を強く持たせるようです。冷静な観察者の目線。主人公の情熱や使命感に対して、「冷たい」表現だということでした。主題が生命讃歌になってしまうような絵も、またこの本にはふさわしくない。
もっと頼りなげな、つい助けたくなるような存在、として赤ちゃんを描くことが今回の本に合っていたようです。そして、赤ちゃんを通して、愛おしい、守りたいと思わせるきもち、こそが、描かれるべきもの。最終的に選ばれた装画を拝見しましたら、「あぁなるほど、そういうことかぁ」と納得しました。とても魅力的な赤ちゃんの絵で、たまらなく柔らかそうで、頼りなげで、なんとも愛おしいものでした。
他のコンペ参加者の絵についての鈴木先生の言葉も、聞けば納得させられます。生まれたての赤ちゃんというひとつテーマのもと描かれた数々の絵に対し、それぞれ絵のもたらす印象の違いを明確に説明してくれます。絵の違いを繊細に見極める目、恐れ入ります。そして鈴木成一さんの、語彙の豊かさ!微妙なニュアンスを言葉に変えて伝えてくださるところも尊敬します。膨大な量の原稿を全部読んで装丁しているからでしょうか‥。私も、読んで、描いて、そのニュアンスを言葉でも説明できる人になりたいです。

ブックカバーチャレンジのバトンの一日目です。本を7冊紹介する、というリレーだそうです。本の表紙だけ紹介。本文の説明なし。1日1冊紹介し、毎回誰かにバトンを渡すというルールらしいです。始めた方がどなたで、定められたルールの意図は何なのかなど分からないことばかりのバトンです。よく分からない(納得できていない)ルールに従うのはシャクなので、自分でルールつくります。「ブックカバー」=「表紙」について考えるチャレンジをしてみようと思います。
長文読んでくださった方、ありがとうございます。