20080819

満月が少し喰われた夜







昼、花子さんのおうちを訪ねた。 
陽射しがキツクて、コルゲートパイプの家を直視することができない。 
写真をとっても全貌が見えない。 
部分月蝕ならぬ部分家蝕。 
「はーーなーーーこさんっ。元気ですかぁ?」 
「ふふふふふ。元気元気。あがってあがって。」 
90歳目前、小さな身体の花子さん、暑さでへばってないかしらと心配したけれども 
いつもに増してにこにこ笑顔で楽しそうに喋るからちょっと安心。 
花子さんはまだまだ現役で畑仕事をしながら、自分でお茶も作っている。 
「今回はドクダミとハトムギでお茶を作ってみたんです、ふふふ 
どうかなぁ、若い人の口に合うかしら」 
苦味えぐ味少なく、さっぱりとした味わい。お見事! 
一粒の葡萄をギュウ皮で包んだ和菓子との組み合わせも最高。 
「これ、私からのお土産です」と私からは 
家の畑の茄子を二本、夏みかんを二個、庭に自生している白百合を二本。 

健二さんに手を合わせて、 
日経新聞に目を通すことを欠かさない花子さんと、女だけのお話。 
今日のメイントピックはエネルギーのこと。 
このごろの原油高のこと、原子力発電のこと、新しいエネルギーのこと。 
それから「地球温暖化問題」の「胡散臭さ」について。だ。 

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「花子さん、最近どうも、『環境問題=地球温暖化』『環境保護=CO2減らすこと』っていうあまりにも単純な図式に陥りすぎな気がするんです。なにか不自然で恐いっていうか、気持ち悪いっていうか。情報が操作されているじゃないの感がなんとなくするんです。なんとなく。『不都合な真実』も読んだんですけどね。アレも地球が温暖化している、二酸化炭素を減らせの一辺倒なんですよ。どうかな。と。 
『不都合な真実は何か別の不都合な真実を隠す為に書かれた本だ』っていうジャーナリストさんもいるみたいで。でね。この『温暖化の煽り』の影には『原子力』があるという説があって…略…政治的な思惑と、お金のことなんですけど。なんか、すごくひっかかってて、どう思います?」 
「そう!もりたさんもそう感じるの!実は私もそう、最近気になっていたところ。今日本の海岸線に原子力発電所が何基あると思う?○基あるんです。○○発電所に○○…(花子さんの、こういう数字や名前がポンポンでてくるところには、ほんと感服する。)…そ…う、やっぱりねぇ、でも、まだ、原子力発電に依存するっていうのは恐いことだと思う。それに、情報操作、と言っていいのかどうかは分からないけれども、もりたさんの言うとおり『環境保護=CO2減らすこと=原子力発電』って単純な考えを皆が皆持つようになったら…恐いねぇ」 
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こーいう話は女同士に限る。 
どんな大きな話をしていても、最終的に現実の生活に落とし込んで話ができるのがいい。 
女は男よりいくぶん、現実的な生き物だと思う。 
じゃぁ、そこから何ができるのか、私は何をするのか。 
女同士の話。 
なにより、自意識過剰かつ小心者な私は 
そんな話を普段人前でぺらぺら喋る女は可愛くないんじゃないかと、 
思ってしまうから女同士が気楽。 
どんなに時代が変わったといっても。 
環境問題の話や経済の話、ましてや政治の話なんて。 

「ううん。時代は変わってきているよ。女の子が伸び伸びとできる時代なんだから 
遠慮してないで思いっきり行きなさい。 
ただし、何も男と同じようにしなくてもいいと思う、 
女だから見えることもできることもあるはずでしょ 
女の、それから、もりたさんだから気がつくことも、言えることも、できることもあるでしょう 
いい時代だよ。羨ましいもの。頑張って」 

花子さんのおうちに行くと、最後にはいつも、思いっきり励ましてもらえる。 
元気になれる。 
がんばろーって前向きになれる。 
花子さんの笑顔はいつも、私の背中を押してくれるし 
花子さんの笑顔が私に、笑顔の大切さを思い出させてくれる。 

そんな花子さんの笑顔がこの日、少しだけ、すこぅしだけ、翳った。 

「オーストラリアに行ったら私、二年か三年くらい、帰ってこないかも。 
交通費工面できる自信がなくて(笑)ほら、燃料代、高くなってるし」 
って冗談まじりに言ったときだった。 
「三年後に私は居ないかもしれない…がんばって工面して何度か帰ってきなさいよ…」 
花子さんは真面目な顔をしていた。 
締め付けられるような気持ちになった。 
とりあえず、出発までまだ日にちがあるから、何度か訪ねることを約束して 
コルゲートパイプの家を出た。 

私は、「人との出会い」にすごく恵まれてきたように思う。 
おもしろくって素敵でほこほこした気持ちにさせられるような人たち。 
すてきなほこほこしたひとは、またすてきなほこほこした人に繋がっていく。 
私自身はまだまだとてもとても未熟だけれど、「周りにいる人」に関しては申し分なく二重丸。 
まんまる満月だ。 

でも、二年後三年後のことは、分からない。 
なんだかちょっと、正直、焦る。 
会っておきたい人には会って、きちんと話をして 
いやきちんと話をしなくても、にこにこほこほこ楽しい時間を共有してから 
出かけなくっちゃ。