20080211

三度目のコルゲート



コルゲートパイプという名の、 
鉄パイプに一人棲み続ける花子さんを訪ねるのは 
これで三回目。 

またしても雨。 
どんよりと重い鉛色の空の下 
木々の間からのぞくコルゲートハウス、川合健二邸に 
ぎょっと してしまう。 
三度目だというのに。 

庭のVWビートルの錆は、すこぅし進行したように見え、 
そして、花子さんはまた、すこぅし小さくなったようにも見えた。 

今回は、私のつくりはじめたタウン誌、 
フリーマガジンQUATROを携えての訪問。 
私がこの仕事をするようになったのも、 
このコルゲートパイプの家のおかげだ。 

「まぁーー。あらーーー。不思議な縁ねぇ。」 
とコロコロと笑う花子さんは相変わらず可愛い。 
川合邸を舞台に、個性的な服に身を包んだ、個性的なモデルを撮った 
若者向けファッション誌の表紙、トップ特集を飾るファッション写真を、 
健二さんの遺影に供えながら 
「この人が、この写真みたら何て言うかしらねぇー。」 
と、いたずらっ子のようにくふっと笑う。 

私は花子さんがとても好き。 

薄暗いおおきな鉄の洞窟の底のコタツに入り 
ぬくぬくと暖をとりながら 
花子さんのみかん畑で採れたみかんをいただく。 


芸工の先輩と来た一度目の、初めての訪問では 
この家自体のことや、花子さん健二さん夫婦の話などをきいた。 
ただただ家の迫力に圧倒され、花子さんの頭の回転の良さに驚き 
健二さん、花子さん夫婦の潔い生き方に憧れた。 

建築の伊藤先生(C+A)と、芸工の先輩方との二度目の訪問では 
川合健二さんそのものの話をした。 
建築家として仕事をしてきた先生の生の体験と比較しながら 
川合健二というオトコがどれだけ常識ハズレな稀有なひとなのかを思い知った。 


三度目。 
今回は、ぬくぬくとコタツで暖まりながら 
だるーくゆるーく、おしゃべりをした。 

豊橋のこと、この雑誌のこと。 
デザインのこと。家のこと。 
人の暮らしと、自然のこと。 
女であること。 

私は、前回の訪問の時は聞いてばかり(質問して、答えてもらう)だったような気がする 
けれど、今回は、自分のことも少しお話して聞いてもらった。 
花子さんとお話していると、自分の考えがみるみるすっきりとまとまっていく。 

花子さんと話していると 
豊橋がますます好きになるし 
自分は自分でいいんだな とふっと心が軽くなるし 
女に産まれてよかったな とも思える。 
素直に、正直に、真っ直ぐ生きていけばそれでいいんだと 
ぽんと肩をたたかれているような。 
とにかく元気になる。 

「大学で四年間、真剣にひとつの物事を考え続けてきたっていうのは 
まず、一つの大きな財産よ。 
それはきっと、どこで何をしてもあなたの役に立つから 
まず、自信をもてばいいの。」 

「やりたい仕事とは別の仕事だとしても、 
次のステップではまったく違う方法で問題に取り組むのだとしても 
それでも今やっていることは必ず役に立つ。と、思うのよ。 
一生懸命がんばればね。 
手抜いたり、適当にやっていては全然ダメだけれどもね。 
真剣にそのひとつひとつの仕事に取り組んでいけば 
しっかり幅が広がる。それはきっとあなたの力になるから。」 

泣いたり悩んだり笑ったり 
むーっとなりながら制作していた四年間も 
オムライスを焼いていた時期も 
編集のお仕事している今の時期も 
一生懸命なら無駄じゃない。 
遠回りしてるけど、大丈夫。 

花子さんの言葉には力がある。 

フリーマガジンで頂いた真子企画ページ2ページで 
私がやってみようとしていることを、花子さんにも聞いてもらった。 
このページをつくることで、読者にナニをつたえたいか。 
観念的なことだけじゃなくて具体的に見せながら。 
紙面構成も タイトルも、
つかうイラストの例と写真の雰囲気も取り込んだラフをみせながら。 
例えばで描いた手書き図面と、例えばで書いた文章もある。 
プチエスキス。 

無事花子さんからOKをもらい(笑) 
その真子企画連載の(連載はまだ決まっていない・笑) 
記念すべき第一回に相応しい取材先を紹介してもらった。 
花子さんの口ぞえで、お会いできることになった。 

ありがとうございます。 

この家から、いろんな話がうまれてく。 
つながっていく。 
私にとって、このコルゲートパイプの家は 
とても大きな存在。 

またたっぷりお話して、すっかり長居して 
コルゲートパイプの家から外に出たら、 
雨はいつのまにか雪に変わっていた。 
豊橋に雪が降るのは珍しい。 


花子さんに、素敵ね と言わせるページをつくりたいのだ。 
がんばろっと。 
一生懸命ね。