20080706

海辺の話/否定しないこと、否定できること02

焚火の数日前、ふと気になって電話をかけた。 

「ちょっと聞きたいことがあるんですけど、いいですか? 
あの。夜に表浜で焚火をするんですけど、その場合、どんな影響が考えられます? 
気をつけた方がいいことって何かあります?」 
Tさんは、電話口の向こうで 
「焚火!いいねぇ!」 
と少し笑った後、 
「深夜過ぎの不自然な音と光。 
…ロケット花火の音とか、波音を掻き消すような騒がしい音楽。 
車のライトを連続してつけるとか…」 
といい、こう付け加えた。 
「海辺に集まっちゃいけないとか、遊んじゃいけないとか 
そういうことを言うつもりはないし、ひとの楽しみを奪う権限なんてないからね。 
ただ、そうだねぇ、表浜全体が煌々と明るくなって騒がしくて 
それが一晩中朝まで、しかも毎晩続くっていうんなら止めに入るね。」 
と。 


                     


Tさん達は毎朝、表浜を見て回っている。 
表浜には毎年アカウミガメが上陸している。 
今は海亀の産卵シーズンだ。 
深夜過ぎから明け方浜に上陸した母亀は慎重になる。 
光や音を警戒する。 
どこもかしこも明るくて騒々しかったら上陸できない。 

「でもさ。アレしちゃいけないコレしちゃいけないって糾弾するのは 
どうもスマートなやり方じゃないよね。 
ここは保護するから立ち入るな!って 
完全に人と海を隔てることが良い方法だとは思えない。長い目で考えるととくに。 
関わり合いのなかで、どうバランスをとっていくかだと思う。 

…で、守田さんさ、もし雑誌で特集できるんなら 
禁止事項を前面に押し出して否定的に伝えるんじゃなくって、 
海辺での愉しみ方、とか海辺と関わる生活スタイルを魅せるのってどう? 
ま。バカ騒ぎするんじゃなくってさ。 
街でしているような、クラブで踊ってカラオケで歌って 
大音量で朝まで騒ぎ倒して楽しむってのを海辺に持ち込もうとしないで。 
そういうのは夜も前半で切り上げて。 
深夜過ぎたら明かりを小さくしてさ。 
音楽も小さくしてさ。 
月影や星影をたのしんで、波音に耳を傾けて… 
海辺では、そういう愉しみ方をね。 
学生とか若い人にも覚えて欲しいんだよね。 
こうまったりゆったりと時間を過ごすこと。 
この魅力でもって、変えて生きたいよね」 


                     


せっかくの素敵な提案だけど、 
どうも雑誌では当面のところ特集を組めそうに無いことを伝え、詫びつつ 
でも、私のライフワークにしたいことだから、というと 
「はっはっはっ」と笑いながら根気よく話しに付き合ってくださった。忙しい方だからと、出来るだけ短くするよう心がけながら 
その後もアレコレ聞いて意見を乞う。 

Tさん達は本当に毎日毎日、海へでているのだ。 
現場を見て感じている。 
その地道な積み重ねからうまれる言葉に私は多くの信頼を寄せている。 
100%ではないにしても 
(「99.9%は仮説」という本を読んで以来、どうも「100%正しいとは言い切れない」と考えずにはいられなくなった) 
それでも、研究室のなかからほとんど出てこない研究者や 
たまの視察だけで後は、報告書の数字を追っている人の言葉よりも 
信頼できると思う。 
なぜならそれが、 
細部ではなく全体を、頭だけではなく身体全体で、見て感じて考えてうまれた 
実感を伴う仮説だからだ。 

私がTさんにあれこれ相談しよう、聞いてみようと思う理由は 
彼が地道で真面目なリサーチャーだから、というだけではない。 
これだけ真摯に問題に向き合うTさんという人そのものにも、 
すっかり惚れ込んでしまったからだ。 
初めてお会いした日、 
Tさんはとても興味深い話をしてくれた。それは小さな講演会だった。 
砂浜という環境について、アカウミガメの生態について 
環境保護活動の現状について、表浜の実態について 
ナチュラルなグラデーションをつくる浜と、構造物、人工物について。 
特にこの「グラデーション」と「自然と人工物のバランス」について 
ほんとに想いをめぐらせていたことだから 
興味をひかれないハズはなかった。 
すっかり夢中になってふむふむと聞いていたのだけど 
話を聞きながら同時に、なんとなく人としての器の大きさをかんじて。 
この人なら私の抱えてるモヤモヤをぶつけても受け止めてくれそうだと 
思い切って、いままで抱えてた疑問をあれこれ聞いてみた。 
そしたら、全ての質問に、真面目に丁寧に応えてくれまして。 
以来、100%正しいと信用するつもりはないけれど…なんて生意気言いつつ 
「あなたはどう思いますか?」を聞いてみるのが、とても面白いのだ。 


                     



「あ。そうそう。で。焚火をするんですけど… 
深夜過ぎ〜明け方は騒ぎすぎないこと、 
花火や、大音量の音楽とか不自然な音は控えて 
まったりゆったりたのしめば…?」 
「うん。そうそう。まったりゆったり。海の音と風の音に耳を澄ませて」 
「はい。たぶん。だいじょうぶだと思います。きっと。」 
「いや、別に、一晩ぐらいいいと思うけどね。 
ただ、その行動がどんな影響を与えるのかも知った上で行動して欲しい。」 
「はい。…ところで、音も光も控えめにまったりしてたら、 
もしかしてアカウミガメに会えるかもしれないですか?」 
「かもね。まぁ、楽しんでおいでよ。…でも、雨降りそうだね。」 

  



       否定をするんじゃなくて、押し付けるんじゃなくって 

       より魅力的な提案をすることで、しぜんに人を動かせないか。 


       Tさんの提言はクリエイティブだと思った。 

       否定と批判だけじゃ何も生まれない。 

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