20070608

水越武





畏敬 おそれうやまうこと 


自然環境破壊問題が一般常識として浸透しつつある昨今、 
「うんそうだね。自然を大切にしよう。」と簡単に口に出す人の中には、どうも、自然を単純に「癒し」の対象としてしか捉えていない人が多くいるように思う。 

自然環境とは、やさしく、あたたかく、大きなもので、私達を包んでくれるもの?私達に安らぎを与えてくれる為だけのもの?それはちょっと甘いんじゃないだろうか。 
自然はとても厳しいものだ。厳しくて、時にとてもしんどくて、全てのものがなんかもう必死なんです(うまくいえない)。強い強い命の力。だからこそ、美しいし、たまらなく魅力的。そして時にたのしく、かわいらしく、愛おしい。もちろん癒してもくれる。 

自然に癒しだけを求めて、街を捨てて森で生きる、なんてユメ物語だと思う。自然環境も、ひとのつくってきたものも、バカにしちゃぁいけない。厳しい環境の中を生き抜くために、人はシェルターをつくり、そこに棲みはじめたのだろうと思っている。建物も、街も、そもそも”生き抜く”ための必死な人間の知恵だったはず。自然環境も、ひとのつくってきた環境も、どちらも真剣勝負。 

よく耳にする「環境保護」「地球を守ろう」という言葉。 
引っかかりませんか? 
人間が「地球を保護しよう」だなんて、おこがましい。 
地球に生かされているのに。 
自分は地球の一部なんだよ。 


地球に足をついて仕事する人 
地球で遊ぶことのできる人 
そんな人同士で、わりとよくこんな話をする。 
まぁ、なんのことはない、とりとめのない話だ。 
なんのかんの言ったって、 
そんな自然の世界につなっがているのが好きだ というだけの私達。 

それで、そうやって自然の中に居る人は 
命懸けの正念場にでくわしたり、 
命の交代するシーンを目にしたりして、 
自然の厳しさなんかを知ると同時に 
どうしようもない愛情が沸きあがってきちゃったりするもの。 
単純に「好き」というのとはちょっと違う。 
畏敬の念。 

おそれうやまう気持ち。 


そんな気持ちをおもい起こさせてくれる人の一人が 
水越さん。 
高校時代、私の所属していた山岳部の先輩にあたる。 
大先輩だ。彼は写真家として自然の写真を撮り続けている。 

初めて彼の写真を見たとき、私は高校生だったのだが、正直に言うと「キレイ」とは思わなかった。世の中にもっとキレイで、(すてきな色や構図で)、人をひきつける魅力的な風景写真はたくさんあると思った。我ながら嫌な後輩だ。 

水越さんの写真は、泥臭いかんじがする。垢抜けない。カッコイイ、綺麗な自然ではなくて。もっとこう、生々しいかんじ。 



ところで、高校山岳部の同窓会(?)なるものが、実にマメに活動をしているのです。月に一回届く”山の会通信”では、誰かがなにかコトをおこすたびに、それを取り上げて、応援している。「○○が自費出版で本を出した、みなさん読みましょう」とか「○○が個展をひらくようなので、ちかくの方はぜひ行きましょう」とか。どんな小さなことでも。 

そして今月の通信で、私は、水越さんがTVに取り上げられることを知った。今日はその放映日だった。「すごいねぇ。こんなちゃんと長い時間取り上げられるなんてねぇ。途中たいへんだったかもしれないし、今も大変かもしれないけど、でも、こう、ずっとすきなことを貫いてきたっていうのはすごい、つよいなぁ…」としゃべりつづける母と一緒に見た。 

水越さんは「僕は風景をとっているんじゃない」と言っていた。森の中で「今、僕は森を風景としては捉えていない。風景ではなく森を撮っている」と。少しわかりづらかったけど、彼の写真は「森という命」を被写体としているようだ。「生態系ごと森をとらえる写真家」と紹介されていた。 


そうか。野暮ったくて、泥臭くて、どこかぐちゃぐちゃっとした水越さんの写真は、でも生々しい命がつまっているんだな。 

「必死にみんな生きている。この世界どんどん減ってきている。なくなる前に僕は記録として残しておく」やさしい口調だったけれど、強い意思を感じた。 

何かを忘れそうになったら、水越さんの写真を見ようと思った。 



そんな水越さんの写真展が7月1日まで東京の写真美術館で開かれています。 

こんな長い日記をかいておいて、結局宣伝でした(笑) 
読んでくださった方、ありがとう。 
いちお、後輩として。 
尊敬できる考え方の持ち主である先輩の、 
最大の(!?)写真展ですから。 
もしよかったら一度行ってみて下さい。黙々と撮り続けた40年の中から選びぬかれた写真だそうです。よ。 

写真展 http://mizukoshi.manipicture.com/exhibition/ 
写真美術館 http://www.syabi.com/details/daichi.html 

*日記に添えてある写真は、水越さんの一番新しい写真集の表紙です。どうぞよろしく 



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