20071109

ヒマラヤ杉の樹の上で

人は日常の生活や煩わしい人間関係から逃れるために、 
  自分とほんの少しの大切な人だけの秘密の場所が必要だと思いませんか? 


ツリーハウスクリエイターKさんの言葉。 
秘密の隠れ家のようなツリーハウスをつくることを仕事とし 
秘密の場所で大切な人たちとほっこりした時間を日々送っている男。 

ツリーハウスとは、生きている樹を構造体、つまり柱としている建造物のこと。 
トリの巣のような。 

彼のオフィス 兼 サロン 兼 カフェ を訪ねました。 

静かで、ゆったりとした満ちた時間を過ごしました。 
だから、しずかに ゆったり、たんたんと その時間のことを書きとめておこうと思います。





東京都渋谷区。 
表参道のこぎれいなショップの角を横に折れて、 
てくてくてくとしばらく歩き 
古いかすれた看板の小さな花屋の角を曲がり 
車一台通れるかどうかといった感じの細い静かな路地に入れば 
ほどなく、道の脇をぴっちり埋め尽くす建築物に挟まれるようにして浮かぶ 
ソレ(オフィス 兼 サロン 兼 カフェ)を見つけることができる。 

一本の大きなヒマラヤスギの中ほどに 
串に刺さった団子のような緑の小屋。 
見上げれば樹の上の方に小さなデッキも見える。 

私が会うことになっていたのはKさんの弟子(?)のHさん。 
電話越しの声の感じだと、落ち着いた大人のひとを想像していたが 
思っていたよりも若いおにぃちゃん。 
部屋内を下から上へつっきる柱、ヒマラヤスギの樹の幹を囲むテーブルで彼は 
いい匂いのする紅茶を飲みながらツリーハウスの絵を描いていた。 

小さな小さな部屋の隅に小さなカウンターがあり 
スタッフの女の子が一人 
あったかぁいラテを淹れてくれた。 

「時間があるなら絵をかいていかない?ツリーハウスの」 
ひとしきり話した後、紙とペンを渡される。 
流れで絵を描くことになる。 

そうこうしているうちに、kさんが帰ってきた。 
日本におけるツリーハウスクリエイターの第一人者。 
写真のひと。すてきな人。 
「さむいなぁーーー。珈琲ほしいな」 
とびっきりのかわいい笑顔でカウンターに頼むと 
部屋の中に珈琲のにおいがたちのぼる。 
私の描いてるツリーハウスと、 
お土産でもってきたミニポートフォリオ(作品集)と 
例のコルゲートパイプの家についてまとめた冊子を肴に 
家や森や人の話をとりとめもなくする。 

「このドラム缶の家(川合邸)って基礎打ってないの?転がってるだけなの?でも人住んでいるんだよねぇ?住居なんだよねぇ???確認申請どうしてるのかなぁ???」 

なんでも、ツリーハウス確認申請を通らないらしい。 
住居として建築基準法的に認められないようだ。 
法律によると、建築物とは土地に定着するもの。 
建築の土台となる「基礎」が人工物ではなく 
自然の生きている樹の根であることが要因なのだそうで。 
建築ではないということはつまり、固定資産税の対象にもならないのだと 
Kさんは教えてくれた。 

日常生活の隙間にひっそりとある隠れ家、EscapeWorldのツリーハウスは 
法律的にもEscapeWord、法の隙間にあり 
税金の網の目もするっとくぐった現実世界から切り離された存在だなんて 
なんだかおもしろい話じゃない? 

私は笑ってしまうのだけど 
Kさんは大真面目。 
なんでも、ツリーハウスに暮らしていこうとした場合 
住民票がとれないのだと。 
「別に俺一人だったらそれでもかまわないけど、 
産まれてきた子どもに戸籍がないのは  
ちょっとかわいそうだからなぁ。」 
Kさんは今年、二人目のかわいいベイビーがうまれたところだ 

ぎっっとドアが鳴り 
若い男のこが入ってきた。 
常連さんのお客さんらしく 
幹を囲んだテーブル席のにストンと座ってカプチーノを頼み 
黙って本を読み始める。 

そうか、ここは一般にも開放されているカフェだったんだなと 
改めて思い出す。 
お客さんもスタッフも入り混じっている 不思議な場所だ。 


「コンニチハ。ハジメマシテ。ツウヤクノ○○デス」 
とドアを開けて通訳と名乗る女の人が入ってきた。 
なんでも今日はシンガポールテレビの取材が入っているらしく 
彼女はその下見のため早めにこのツリーハウスに来たらしかった。 

ん?シンガポール!? 
Kさんは最近カンボジア、 
アンコールワットを見下ろすツリーハウスをつくったのだ。 
有名な世界遺産に手を出しちゃったのだから、 
はるばるシンガポールから取材もこようもの。 
彼女も幹を囲んだテーブルについた。 
静かに本を読み続ける若い男のこの隣で 
あたたかい紅茶を飲みながら「予備知識」の為、 
と過去の作品の写真集をぺらぺらやりはじめた。 

「がっはっは」豪快な笑い声とともにやってきたのは 
ツリーハウスビルダー、大工の棟梁。 
ヒゲとロン毛の印象的な体格のいい男は 
「あったかい飲み物!」を頼み、仕事の打ち合わせをはじめた。 
若い男のツリーハウスクリエイションのメンバーは 
笑顔で話しながらパソコン作業をすすめる。 

その後、 
もう一人、スーツ姿のお客さんが来てカウンターでラテを飲み 
その隣ではツリーハウスクリエイションのメンバーの明るい女が 
忙しそうにひっきりなしに電話をしている。 
Hさんは、みんなと話しながらも、あいかわらず絵を描き続けて 
私もおしゃべりしながら絵を仕上げた。 

なんだろうこの居心地の良さは。 
家 みたいだ。 

小さな部屋は人でいっぱいになりあたたかく 
それぞれのカップからはあったかい湯気が立ち上り 
しかし天窓から見えるヒマラヤスギは風にゆれ外はなんだか寒そうで。 

ふとKさんが ここでよく開く 
大切な人たちと、親しい人たちでひらくホームパーティのことを話してくれた。 
ぎっちりむりやり人を詰め込んで最大20人 
このテーブルの上にはダッチオーブン料理をいっぱい並べて 
ともだちに演奏してもらって。 
樹の上で木の葉のざわめきにつつまれながら 
美味しいご飯と、飲み物と、音楽と気の合う仲間と 
こんな幸せなことってあるかい? 

と。 
そんな幸せなことってないわぁ。。 
と私も激しく何度も首をふって同意。 
「それにね。私ダッチオーブン大好きなんです!ほんとアイツは最高ですよね」 
と大興奮してダッチ話で盛り上がる。 
ここのカフェのメニューを見せてもらえば 
加熱するフードメニューは全てダッチオーブン料理というハマリよう。 

そんな旨いもの好きなひと達がつくる 
ダッチオーブン料理がいくつもテーブルに並ぶパーティだなんて 
想像しただけで幸せになる。 
いい夜なんだろな。 

それでこの天窓から月の光が落ちてきたら最高だけど、 
東京では難しいかしら なんて思いつつ 
改めて部屋内を眺める。 
ツリーハウスの写真や絵、本に模型はもちろんのこと 
ハンモック、でっかいザックにサーフボード 
クライミング用のザイルやカラビナやヌンチャク 
ハッピーな気分になれる道具たちだらけ。 
そして棚にはCaravanのCD…♪ 
「まぁ!!私Caravanだいすきなんですよぉ。」と言えば 
「まぁ って(笑)」と笑われた後 
「Caravanは友達だからね。そのよしみでここでCDも売ってるんだよ。」 
と! 
まっ!! 
「そぅかぁ。Caravanがすきなんだねぇ。よかったねぇそれは。Cravanも何度かここに来て歌っったんだよ。あと、ケイソンとか。」 


あぁぁぁぁぁなんて素敵なホームパーティ♪♪♪ 


山 森 ツリーハウス 樹 海  
クライミング サーフィン 
コルゲートパイプの家 
ひと セルフビルド こども かぞく 
カフェ ダッチオーブン Caravan 

私のすきなもの 好きなこと 
それぞれ別々に好きだったものが 
どんどんつながっていくよ 



シンガポールテレビの取材がはじまるというので 
私たちは席を移した。 
私たちというのは、私(23)と、 
お客さんの、例の本を読んでいたひと(20)と 
スーツ姿の男(23)の三人。 
「背景として自然に珈琲をのんでいて」とのこと。 
カウンターは狭くて 
三人座るとぎゅうぎゅう窮屈なほど。 
カウンターの向こう側の女の子(23)が 
「カウンターがいっぱいになったの初めて」と嬉しそうに笑った。 

どこか似た匂いのする同年代が部屋の隅に固まる。 
取材、しかもシンガポールのテレビ! 
てなもんで興味津々の私たちは つい聞耳をたて 
取材の様子を目で追っていたら 
通訳さんに注意を受けた。 
「カメラマンガ、ウシロノ ヨニンガ ミンナ コチラヲムイテイタ ト イッテイマス。 シゼンニ オネガイシマス」 

あちゃ。。。 
苦笑いしながらカウンターに向き直り 
まぁそれじゃぁと それぞれ自己紹介なんかをする。 
自己紹介とか気恥ずかしいから苦手。 
みんな静かでおだやかで笑顔がかわいい人達だなぁと ほこほこして話していたけど 
掘り下げて聞き出せば聞き出すほど 
実はみんな結構アツイひとだった。 

本を読んでいたハタチの男は物書きを目指していた。モモのような児童文学を書きたいのだといった。ネットに名前打ち込んで調べると受賞していることが分かった。 
自然を愛するカフェスタッフの女の子は映像と写真を「けっこう本気でやっている」と言っていた。とある夏フェスの背景の映像をやったのだ とネットで見せてくれた。ネットに本名打ち込んで検索すると、アマゾンにも飛んだ。23歳。彼女は本を出していた。世界を放浪したときの写真とエッセイの本。 


ちょっとわくわくする。 
みんなそれぞれ きらきらして 夢 を語る。 
それからみんな、森と海と、ツリーハウスが好きで 
ここのまったりとした空気が大好きなんだ。 
幸せな時間だった。 


「さて、と。私そろそろ行かなきゃ。今から早稲田に行くんだけど、早稲田まで行くのってどうやっていくのが一番便利?」 
私は席をたった。 
名残惜しいけど。 
すると物書きを目指すその人が 
「早稲田??俺、早稲田の生徒だよ」 
と言うんですよ。これがまた。 
スーツ姿の23歳が「おわ。すごい偶然だね。運命的だなぁ」 
と勝手に感動して。 
ところでこの人の口癖は「運命的」で、この日もなんど聞いたことか。 
「運命的に私と口癖が一緒」でおかしくなって笑いが止まらなかった。 



まだ続いているシンガポールテレビの取材を横目に私は帰り支度をする。 
目で挨拶をしてドアをあければ 

「おい。東京来ることがあったら、必ずここにも顔出せよ。」 

と声をかけてくれる。カメラマンさんがまた不機嫌な顔をした(笑) 
ごめんなさい。なんども取り直しさせて。 

「それから、ここで開くパーティ、こんど呼ぶから。…愛知じゃ遠いかぁ??」」 


「そりゃもう、ぜひとも!!ダッチオーブン持参して参加します!」 


ドアを開けて階段を降り 
ヒマラヤスギとツリーハウスを見上げる。 
空は薄暗くなりはじめ、緑の小屋の窓からはあったかいオレンジの光が漏れていた。 

ツリーハウスに別れを告げ、 
せっかくだから案内してくれるというので早稲田に向かう。 

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